犬や猫の眼窩腫瘍について|目が飛び出ていたら病気かも?│埼玉県川口市-森田動物医療センター

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「眼窩(がんか)」とは、眼球やその周辺の組織を収める頭蓋骨の凹みで、犬や猫では眼窩腫瘍のほとんどが悪性といわれています。
眼窩腫瘍は目の奥にできた腫瘍により目が飛び出し大きくなっているように見えることがあります。そのため、眼窩腫瘍と同様に目が大きくなったように見える症状が見られる緑内障との鑑別が重要です。

今回は犬や猫の眼窩腫瘍について、症状や診断方法、治療方法などをご紹介します。

※記事内に刺激が強い写真があるためご注意ください。

■目次
1.眼窩腫瘍とは
2.症状
3.診断方法
4.治療方法
5.症例
6.まとめ

 

眼窩腫瘍とは

眼窩は眼球やその周辺の血管や脂肪、神経、腺組織などが収まっている頭蓋骨の凹みで、目の奥に位置します。
眼窩腫瘍は眼窩にある眼球とその周辺組織に発生する腫瘍で、犬では90%、猫ではほぼ100%が悪性といわれています。
また、犬の眼窩腫瘍は60%が眼窩に発生し、眼窩腫瘍とは呼ぶものの40%は口腔や鼻腔から発生しているものもあります。

腫瘍の種類としては犬では骨肉腫や繊維肉腫、メラノーマ(悪性黒色腫)など多種類が報告されており、猫では扁平上皮癌が多く見られます

 

症状

眼窩腫瘍は目の奥に腫瘍ができるため、眼球が後ろから押し出され、目が飛び出ます
目が飛び出す病気は以下のように多岐にわたるため、鑑別が必要です。

<眼窩腫瘍>

眼窩腫瘍は目の奥の腫瘍により眼球が押し出されます。眼球の大きさ自体に変化はありません。腫瘍が大きくなるにつれて目が押し出されるため、目は徐々に飛び出します。


眼窩腫瘍がある初診時の外貌

 

<緑内障>

緑内障は高い眼圧により眼球自体が大きくなります。緑内障が進行するとさらに眼圧が上昇し、目玉が飛び出してしまう「牛眼」という状態になります。


牛眼がある初診時の外貌

 

<眼球突出>

眼球突出は強い衝撃(交通事故、後頭部への強打、落下など)により眼球が眼窩から突出します。眼球の大きさに変化はありません。

 

<目の奥や周りの膿瘍>

目の奥やその周りに発生する腫瘍は、歯周病や鼻の膿瘍により眼球が押し出されます。眼球の大きさには変化はありません。膿瘍ができるスピードにより、目が急に飛び出すことがあります。

 

診断方法

眼窩腫瘍の診断は以下の方法で実施します。

<身体検査>

目だけでなく、全身のリンパ節の腫れや腫大がないかを確認します。

 

<視覚検査>

モノや人間の手への反応から目がどの程度見えているのかを確認し、また目に光を当てた時の反応から光への反射が正常に行われるかも確認します。

 

<眼圧検査>

緑内障との鑑別に重要な検査で、眼圧計を使って眼圧を測定します。

 

<目の超音波検査やレントゲン検査>

目の奥に膿瘍や腫瘍がないかを観察します。

 

<CT検査>

腫瘍の正確な位置や大きさを確認します。

 

治療方法

眼窩腫瘍がある場合は、治療の第一選択として外科手術による腫瘍の摘出を行います。

前述したとおり眼窩腫瘍のほとんどが悪性のため、取り残しがないように、腫瘍の周りを大きめに切除します(サージカルマージン)
そのため、眼球ごと摘出するケースが多いです。

摘出した腫瘍は同時に切除した周辺組織ごと病理検査に提出し、結果に則って術後の治療計画を立てます。

周辺組織に転移がなく眼窩のみの発生であれば、予後は良好なこともありますが、再発や転移を防ぐためには定期的に検査を行う必要があります。

 

症例

先日、「愛犬の右目が徐々に突出している」と飼い主様から相談があり、当院で診察を行いました。

こちらの患者様は当院にご来院いただく前に、他の動物病院でCT検査を受けており、眼窩腫瘍があることが確認されている状態でした。


眼窩腫瘍がある初診時の外貌

受診時の検査では両眼とも視覚があり、対光反射も異常は見られませんでした。
また角膜に傷もなく、眼圧も正常の範囲内でした。

しかし、今後、眼窩腫瘍がさらに大きくなると、右目を圧迫し、痛みが悪化する可能性があります。また、目を閉じることができなくなり、角膜が傷ついてしまうリスクもありました。

腫瘍の種類によっては、遠隔転移(肺への転移など)や周囲の組織への浸潤(脳への浸潤など)のリスクがあるため、飼い主様との相談のうえ手術を実施しました。
※今回はCT検査と手術前の胸部レントゲン検査にて明らかな腫瘍の遠隔転移所見がないことを確認しています。

手術では、眼球の裏側に腫瘍が見られたため、眼球の温存が難しい状況でした。そのため、腫瘍と同時に眼球も摘出しました。
腫瘍を完全に取り除くには再発や残存を防ぐ目的で、周囲の正常組織も同時に切除する必要がありました(サージカルマージン)。


腫瘍を摘出し、ノギスで計測している様子

しかし、眼窩内のスペースは限られているため、正常組織を含めた切除を行っても十分なサージカルマージンを確保することが難しい状況でした。そのため、腫瘍に隣接する組織をできる限り摘出したうえで、半導体レーザーを使用して周囲の組織にICG局所凝固を実施しました。これにより、腫瘍周辺の組織を効果的に切除することができます。


術中のICG局所凝固の様子

ICG局所凝固とは、ICGという緑色の色素を使用した治療方法です。この色素はレーザー光を効果的に吸収することにより熱を発生させます。その熱によって、ICGが塗布された部位の細胞は凝固します。また、塗布されていない周辺組織への損傷を抑えることができます。

術後は痛がる様子も見られず、手術前に比べて活動性が高まり、食欲も向上しています。また、病理組織検査の結果は、間葉系腫瘍と診断されたため、今後の経過観察が重要です。


術後1か月の外貌

 

まとめ

今回は犬や猫の眼窩腫瘍について紹介しました。
眼窩腫瘍は目の奥にできる腫瘍で、押し出された目が飛び出します。
犬や猫の目にできる腫瘍はさまざまなものがありますが、ほとんどの場合悪性とされています。
若い犬や猫ほど腫瘍の進行が速いため、様子を見ている間に腫瘍がどんどん大きくなり、目だけでなく命をも失うことがあります
「目の様子に異変が見られる」「目がちょっと出ている気がするな」など、愛犬や愛猫に気になる症状が見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。


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